半田スカラシップ・カンボジア遊学生企画 レポート

【第8期】カンボジアにおける都市開発の現状と今後の支援の在り方

 私は今回のカンボジア訪問に際して二つのテーマを持って臨んだ。それは「都市開発」と「文化遺産保護」である。近年、目覚ましい経済発展を遂げているカンボジアでは急速な都市化に伴い、環境汚染や住民移転といった問題が発生している。世界文化遺産であるアンコール遺跡群やロリュオス遺跡を擁するシェムリアップ地域ではユネスコによる「シェムリアップ地域の区画および環境管理計画;ZEMP」に基づき文化遺跡保護と都市開発がなされている。ZEMPは保護区域の指定と開発抑制により文化遺産保護に貢献する一方、計画そのものが住民移転を伴う開発や厳しい建築規制に対する住民の反発など多くの問題を抱えている。そこで私はカンボジアにおける都市開発の現状を把握し、日本の今後の支援の在り方について考えることを目的としてJICAカンボジア事務所、アンコール・ワット西参道修復工事現場、カンボジア大学、未来の光孤児院などを訪問した。

1、開発援助における日本の担う役割
image8_4_1.jpeg JICAカンボジア事務所ではカンボジアにおけるJICAの活動の説明をしていただき、開発援助のプロセスや今後の支援について理解を深めることができた。現在、カンボジアでは急速な発展の影で住民の移転が強制されるなど、意思決定のプロセスに現地住民の参加が十分確保されておらず、依然として開発に伴う問題を多く抱えている。現地NGOの報告によるとカンボジア全土において2003年から2008年の5年間に強制立退きなどの人権侵害を経験した住民は13州で約25万人に達しており、今後さらに15万人が強制立退きの危機にさらされている。立退きを強制された住民に補償が行われることがあるものの、資産の価値に対して十分な補償とは言えないケースが多い。
 JICAでは開発援助を一時的なものではなく持続性のある質の高い開発協力と捉えており、環境社会配慮ガイドラインを策定することで環境や社会に与える影響などに十分注意を払い、開発援助を行っている。これまでに財政的な援助のみならず技術協力により、住民移転に関する政策立案や環境社会配慮実施体制の強化などカンボジアの都市開発に貢献してきた。環境社会配慮の実施には相手国との密な連携が重要であり、事業に対する考えのミスマッチが生じないように現場の視察や交流が非常に大切だという。一方で、こうした厳しいガイドラインへの対応に苦慮し、環境や社会に対しての配慮基準が緩い地元資本や新興国の資金で行われる事業が近年増加傾向にあるという。こうした現状の中で長期的な視点に立って持続的な開発が行えるような法整備・実施体制を構築していく必要があり、日本の担う役割は極めて重要であると感じた。

2、文化遺産保護の在り方
image8_4_2.jpeg 1970年から続いたカンボジア内戦ではクメール・ルージュの支配により激しい宗教弾圧が始まり、アンコール遺跡群も例外ではなく仏像や寺院は破壊を受けた。実際にアンコール遺跡群を視察した際にも首が撥ねられた奉納仏や弾痕など内戦による深い爪痕を確認することができた。現在、アンコール遺跡群では人類の至宝を守るべくユネスコなど国際機関の協力を得て世界各国の修復チームが活動しており、今回訪問したアンコール・ワット西参道においても上智大学アジア人材養成研究センターとカンボジア政府によるアンコール地域遺跡整備機構(APSARA機構)が協力して保全修復事業を行っている。上智大学の現地センター本部責任者を務める三輪悟さんにアンコール遺跡群の文化遺産保護活動についてお話を伺うことができた。
 アンコール・ワットは西を正門としており、西からの参道は全長540メートルにも及ぶ。西参道の南側半分は1960年代にフランスにより修復がなされ、北側半分は2007年までに上智大学の協力のもとAPSARA機構により修復された。そして現在、上智大学とAPSARA機構は西参道の南側の残り半分の修復を行っている。西参道の修復には現代の建築材料を使用せず、建設当時の石材を用いるなど出来る限り伝統的な技術を再現して修復作業を行っているため、100メートルの修復に準備期間を除いて実に8年の歳月を費やした。炎天下の中で石材を削り、積み上げる伝統的な作業は過酷で作業員の給料も決して高くないため辞めていく人も多いという。こうした地道な作業を通して建築物の修復だけでなく長期的な人材育成や現地の人々の文化遺産に対する理解を深めることが重要であり、財政的な援助だけでは文化遺産保護は決して続かないと感じた。三輪さんはカンボジアの人々がアンコール遺跡群を誇りに感じ、現地の人々が自らの手で守っていくようなサイクルを構築することがこのプロジェクトの最終的な目標だという。

3、最後に
image8_4_3.jpeg プノンペン市内を歩いてみると各所に歴史ある建物が見られ、フランス統治時代の美しい建築様式が数多く残っている。一方で、高層ビルの建設が数多く進められ、プノンペンの風景が変容しつつある。こうした大規模な開発の裏には環境破壊や強制的な住民移転があり、これらの解決が喫緊の課題であるといえる。高度経済成長を背景にした都市開発に伴う様々な問題を経験してきた日本がカンボジアに対して出来ることは非常に多岐に渡り、担う責任の大きさを実感した。現場視察を通して都市開発や文化遺産保護は一時的なものであってはならず、持続性が求められるものであると感じた。単に財政的な援助を行うのではなく、長期的な人材育成や法整備の枠組みづくりへの協力が必要である。
 カンボジア大学では熱心に勉強に取り組む学生の姿に刺激を受け、未来の光孤児院では非常に美しい宿舎や図書館などの施設などに感動したとともに子ども達の笑顔に明るい未来を感じた。今回の訪問を通して、カンボジア人の優しく穏やかな人柄と街のエネルギーというものを実際に肌で感じることができ、非常に学びが多い有意義な旅となった。
 最後にこのような貴重な機会を下さった在福岡カンボジア王国名誉領事館様、西日本新聞社様、そしてカンボジア訪問を通してお世話になった全ての方々に心より感謝申し上げます。


九州大学大学院工学府修士 岡田貴紀

在福岡カンボジア王国名誉領事館

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