半田スカラシップ・カンボジア遊学生企画 レポート

【第8期】食、栄養から見たカンボジア

 8月14日から9月2日の3週間、カンボジアにて自分のテーマ「私の夢とカンボジアの栄養状態の未来」に沿った遊学をしました。私は管理栄養士を目指す者として、特に現地の「食」や「栄養」に興味を持っています。今回は観光だけでなく、様々な所で自分の見たい、知りたいことを学べ、充実した毎日を過ごしました。

1、カンボジア大学
image8_5_1.jpeg こちらでは1週間、現地の学生に混じって授業を受けました。College of Social Sciences (International Relations)の中でクメール文化学や環境学などを受講し、アンコール遺跡やカンボジアから見た日本のインフラ、環境問題について学びました。環境学では日本のゴミ焼却施設が写真付きで紹介され、勉強する一コマがあり、外から日本を学び、不思議な感覚でした。私は先生からいくつか質問を受けましたが、今までゴミの処理について考えたこともなかったので、全く答えられませんでした。無知な自分が恥ずかしく感じたので、専門分野だけにとどまらず、日本の技術や整備について関心を持とうと思います。クラスメイトも毎日「Sister!」と話しかけてくれ、楽しいカンボジアの大学生活を送ることができました。

2、シアヌーク病院
 こちらは無料で診察や薬を提供している医療施設でした。カンボジアでは病院給食は一般的ではなく、こちらの入院患者さんは家族の作った食事やテイクアウトのものを食べているということでした。日本では個々の疾患に適した治療食があり、何十種類もの形態の中から患者さんに合わせて提供することが一般的です。そのため、事前に聞いていたものの実際に見学してみると、驚きが隠せませんでした。食事まで無料で支援することは難しいと思いますが、栄養療法がいつかカンボジアで浸透してほしいと思っています。

3、未来の光孤児院  
 日本の孤児院に何度か訪問したことがありますが、こちらでは英語やコンピューターなどの「教育」を兼ねていました。食事は3食あり、訪問した時、調理員の方が調理中で、良いにおいがして、おいしそうでした。また、現地で調達した材料で日本のおやつ、みたらし団子を同じ日に訪問した方と作って、子供たちにふるまいました。子供たちが食べてくれるか心配でしたが、持って行った時、ワーッと駆け寄って食べてくれたので、嬉しかったです。「Sister thank you!」と笑顔で手を振ってくれた子供たちの姿は忘れられません。
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4、病院(=病院食提供施設)
image8_5_4.jpeg カンボジアで初めて給食を提供している病院とその支援をされている団体を訪れました。病院内の調理施設は大変きれいで、清潔が保たれており、日本とあまり変わりませんでした。また、年齢によって食事量を変える時、日本では秤を使いますが、病院食を病棟で配膳するため、ご飯やおかずをすくう回数で管理している所が印象に残っています。このシステムが成功するまでに様々な困難にぶつかって、今に至っているとお聞きして、新しいことを始める難しさを感じました。また、文化が異なる人と仕事をする上で「Team Building」がいかに大切か教えていただきました。

5、アンケート調査
 学生13人を対象に「食、健康に関するアンケート調査」をしました。今回の遊学の目的の1つでもありましたが、その内容は、①1日の食事回数、②1週間で肉や魚を食べる回数、③1か月のアルバイト代、④1食に使う金額、⑤何歳まで生きたいかです。調査結果は、①10人が3食、3人がその他、②11人が0~4回、2人が5~9回、③11人が200ドル以下、2人が300ドル~400ドル、④10人が1ドル、2人が2ドル、1人が3ドル、⑤3人が70歳代、3人が80歳代、7人が90歳以上でした。日本と物価や価値観の違うところがあり、結果の捉え方が難しいことも分かりました。しかし、今回の調査結果から分かったことは、たんぱく質の栄養源になる肉や魚を食べる回数が少ないことです。現地の人が食べる屋台に行くと、大量のご飯と味の濃いおかずや麺類を食べることが多いようでした。そのため、肉や魚を食べなくても、値段の安い炭水化物で満腹になることができてしまいます。経済的な理由もあるため、色々なことを複合的に考えなければならないですが、どのような支援が自分だったらできるか考えることができました。
 今回の調査は言葉の壁も厚く、うまくいかないことも多かったですが、それも含め、現地の食や栄養問題がどういったことであるか考える良い機会になりました。

6、トゥール・スレン博物館、キリング・フィールド
 私はクメールルージュについてほとんど知識がないままカンボジアに行きました。そのため、歴史を学ぶ目的でこの2か所は絶対行こうと思っていました。博物館は私の泊まっていたゲストハウスの近くにあったのですが、毎日横を通り過ぎている建物の中で、約40年前に多くの人が拷問を受けて命を失っていたと思うとぞっとしました。また、キリング・フィールドはプノンペン中心部から少し外れた所にあり、土から人骨や服の一部が見えている場所もありました。たくさんの頭蓋骨が収納されたところの前で花を手向け、静かにお祈りすることしか私にはできませんでした。負の記憶を保存して後世に伝える場所があることの意味を考えさせられました。

7、料理教室
 クメール料理を学びたかったので、カンボジア人の経営する料理教室に参加しました。日本ではあまり使わないパームシュガーやコンデンスミルク、ココナッツミルク等を料理に多用し、調味していました。マーケットで買い出しをするところから参加したので、見慣れない野菜や果物、その他様々な食品をひとつひとつ丁寧に説明してもらいました。
 思っていたよりも本格的な料理教室で、先生は厳しく、野菜の切り方を間違えると最初からやり直しになってしまうこともありました。また、海外で栄養指導をする時、その国の食文化を知っておく必要があります。調味料を見ただけでも糖尿病や高血圧が増加しているのも分かるような気がします。しかし、その食事自体を否定するのではなく、彼らの食文化を尊重しつつ変革できたら良いと感じました。

8、アンコールワット、その他遺跡
image8_5_5.jpeg シュムリアップではアンコール遺跡を観光し、世界遺産のアンコールワットやプレアヴィヒアなどを見学しました。クメール文化を象徴する遺跡を見ることができ、良い思い出になりました。観光中、突然スコールが降り出し、困っていると屋根のある所に入れてくれ、おまけにおやつまで出してくれました。クメール語でいっぱい話しかけられ、まったく言葉は理解できませんでしたが、なんだか受け入れられた気がして温かい気持ちになりました。


9、まとめ(私の夢とカンボジアの栄養状態の未来)
image8_5_6.jpeg ある人との会話の中で、「私たちはカンボジアを発展途上国と言うけれど、発展することがすべてではないよね」と言う意見がありました。現在のカンボジアは戦後の日本だとか30年前の日本のようだと聞きました。平成生まれの私はその時代を生きたわけではありませんが、どこか懐かしさを感じます。しかし、そこに悲観的な思いは全くなく、発展のスピードは他国と比較しなくても良いと私は思っています。
 栄養面で言えば、日本の管理栄養士が制度を整え、指導することは簡単かもしれません。しかし、それよりも、学びたい、変えたいと思っているカンボジアの若者とともに考え、働き、「してあげる」姿勢より「一緒にする」姿勢の方が継続的な支援になるのではないかと考えます。現に、栄養学を勉強している方とお会いした時、日本の栄養マテリアルに興味をもってくださいました。さらに、帰国してから、プロジェクトの方からメールがあり、その内容は私を熱くしてくれました。それは、私が持って行った栄養教材を実際に使ったという報告とその現場の写真です。どんなものが喜ばれるか、どのくらいのレベルのものが良いか、出発前に何度も考えて選んだものだったので、非常に嬉しかったです。また、この経験は海外で管理栄養士として働きたい私にとって忘れられない出来事になりました。
 私は渡航する前と後でカンボジアの印象が良い意味で変わりました。現地の人と触れ合う中で感じたことですが、若者の多くは自国の未来に前向きであるということです。日本のインフラや栄養学に興味を持っている人もおり、いつか管理栄養士として日本で経験を積んで、この国に戻ってきたいと考えています。
 最後に、貴重な経験をさせていただいた在福岡カンボジア王国名誉領事館の皆様、温かく受け入れてくださった訪問先の皆様、その他遊学を通してお会いした皆様、この場を借りて深くお礼申し上げます。ありがとうございました。


中村学園大学栄養科学部 大河明咲子

在福岡カンボジア王国名誉領事館

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