半田スカラシップ・カンボジア遊学生企画 レポート

【第9期】内戦を経験したカンボジアの歯科事情と口腔衛生状況を探る

 私はカンボジアを実際に訪れるなかで、現地の人たちの生活の中で歯科がどういうあり方をしているかを学ぶために、プノンペン、シェムリアップ、バッタンバンの3都市を巡り孤児院や病院への訪問、大学でのアンケート調査を行った。

○カンボジアの歯科事情

街を歩くと想像以上に歯科医院が多いことに驚かされた。その規模は様々で、ほとんどの歯科医院は診療台が一つのみのこじんまりとしているものであったが、首都であるプノンペンに行くと、日本の歯科医院と同じくらいの規模やそれ以上のものが見受けられた。また日本人などの国外からの歯科医師が開業した歯科医院も複数みられた。大きな州の病院の中に診療科として歯科が含まれているものもあった。  現地のガイドさんから、小学校などで歯みがきの方法は教えてもらえず、成人後、日本の歯科ボランティアの方に教わって初めて正しい歯磨き方を知ったという話を聞いた時には大変驚いた。街の大きなスーパーマーケットには、棚一面にさまざまな種類の歯みがき粉や歯ブラシが並んでいるが必ずしもすべての人に毎日歯を磨くという習慣が定着しているとは限らないようである。

アンコール王朝時代から続く伝統医療が残っていることも関係しているのか、診療所に行く費用を考えて病気やけがをしても自分たちで治そうとする習慣が少なからずある。一部の人は、むし歯になっても診療所には行かず、むし歯の穴に塩や葉っぱを入れたり、薬局で購入できる痛み止めを服用したりと自分で対処してしまうという。診療所では、一般に以下の処置が行われており、大半の内容は日本とそれほど変わらないことが伺える。(診療所や状況により異なるが、ある診療所では)歯を抜くには約20ドル、セラミックのかぶせものには約350ドル(土台の治療も含めて450ドル)、インプラント処置には約700ドル、歯並び矯正には約1500ドルかかるという。ただし、むし歯がある程度まで進行してしまった場合は多くの人は治療の費用や手間などの面から歯を抜いてしまうのが現状であるようだ。そして永久歯を失っても、日本のように失った部分に人工の歯を植えたり、入れ歯を作ったりといういわゆる補綴物を入れるのではなく、そのままにしている場合が多く見受けられる。
image9_1.jpeg また、カンボジアでは噛みタバコという嗜好品が市場で売られており容易に手に入れることができるらしい。ビンロウの実と石灰をキンマの葉で巻いて噛んで楽しむものらしいが、歯への着色や発がん性、依存性など健康被害が確認されている。カンボジアでは未だ日常的に使用している人もみられる。
カンボジア国外から歯科に関する支援が学校や孤児院などの施設で多く行われているが、その性質上効果は限局的になってしまっているようで、国全体の歯科に関わる水準の向上には根本的な医療制度の改善や保健分野全体の水準の向上が必然的であるという意見も遊学中に伺った。

○ノリア孤児院での生活

image9_2.jpeg バッタンバンのノリア孤児院で子どもたちと一週間を共に過ごす中で、子どもたちの歯みがき習慣なども含めて普段の生活をみせていただいた。子どもたちはとても温かく私を迎え入れてくれ、一緒に遊んだり、掃除をしたり、勉強をしたりととても充実した時間を過ごすことができた。こちらの孤児院では、定期的に歯科ボランティアの団体が歯のことに関する教育や、歯科治療を行っているようで毎食後、洗面台で歯みがきをする子も沢山見受けられ、全体的に歯みがきの習慣が身についている印象であった。image9_3.jpegノリア孤児院の岩田さんに「私が歯医者になるための大学に通っている」ということを子どもたちに説明していただいた時の子どもたちの凍りついた表情は私にとってなかなか忘れられないものとなった。これまでに歯の治療や抜歯で痛い思いをしている子も少なくなく、歯医者と聞いた時に怖いものを連想するようである。実際に滞在中に子どもたちの歯を見せていただいた時には、むし歯がほぼ無い子も数名いたが、永久歯がすべて生え終わる前の子が、日本では入れ歯適応になるほどすでにむし歯で多くの歯を失っているのを見て心が傷んだ。
遠方から資金や物資は送ることができるが、勉強を教えたり、ケアをしたりということは子どもたちのそばにいなければできない上、それを行うにはそれなりの人手が必要だということを実際に滞在する中で痛感した。

○内戦からの立ち直り、そしてカンボジアの未来

 国の発展が数十年遅れたとも言われる内戦中には医師などの医療従事者、教師、僧などの多くの知識人の命が失われ、医療施設や教育機関も破壊されてしまった。  内戦後、日本を始めとした国外からの支援により医療機関や学校が建設されるなど少しずつ復興を遂げている。カンボジアでは、海外からの支援によりフリースクールなどで、無料で英語や日本語を学べる機会が与えられ想像以上に英語や日本語が話せる人が多い印象だった。特に、英語に関しては、日本よりも全体的に話せる人が多く、流暢に話せる人も沢山いて非常に驚いた。日本などの海外に留学し、やがてカンボジアの発展を担う人材として母国に戻る学生もいるという。

image9_4.jpeg カンボジア大学を訪問させていただいた時に別の大学の医学部に掛け持ちで通っている学生と話す機会があった。彼の話によれば医学部の授業は英語とフランス語で行われているという。その時に見せてもらったフランス語で書かれたレジメにたくさん蛍光ペンでマークされていたのが印象的だった。私が訪問させていただいた時期は、学生たちが夏休みの代わりに授業を受けていたサマースクール期間であり、積極的に質問する熱心に学ぶ姿勢には大いに刺激を受けた。カンボジアは国民の約30%が農家であり、学校に行かない時間は家の手伝いをしなければならない。あるいは勉強よりも家の手伝いの方が大切だと考える家庭も多く、「しなければならない」からではなく、「したい」から勉強をするという学生の学問へのスタンスに心打たれた。彼らのような熱意に溢れた若者たちがこれからのカンボジアの発展を担っていくのだろうと希望をみせてくれた。

また、歯科ボランティア団体の活動にカンボジアの歯科大学の学生が参加しているなどカンボジア国内の歯科関係者にも国をよりよいものにしていこうとしている動きがみられ、カンボジアのこれからが楽しみになった。
image9_5.jpeg 今回のカンボジア滞在は、私にとって初めての発展途上国滞在の機会となり、そこでみる光景のほとんどが渡航前には全く予測すらできないものだった。現代の日本が教育、医療面、設備等において非常に恵まれていること、そして恵まれすぎているが故に気づかないうちに失っているものがあることに気付かされた。内戦を経験したカンボジアは近隣の国と比較しても医療設備や衛生面での教育などが充分とは言えず、未だ国外からの支援にどうしても頼らざるを得ない部分もあるという。その支援を土台にして、将来的には現地の人たちが主になって発展を続けるカンボジアを支えていけるように歯科医師を目指す身として今後の人生をどう生きていくかヒントを大いに与えてくれた遊学となった。
 最後にこのような貴重な機会を与えてくださった在福岡カンボジア王国名誉領事館の皆様、西日本新聞社の方々、この遊学を通してお世話になったすべての方々に心から感謝申し上げます。

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福岡歯科大学口腔歯学部5年 蓮田賀子

在福岡カンボジア王国名誉領事館

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