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神々の古里 ~「アンコールワットへのみち」から~ 下

 ひび割れた城壁、一部が欠けた石像、倒壊した寺院のがれきの山-。1992年に世界遺産登録されたカンボジアのアンコール遺跡群を回ると「No Entry(立ち入り禁止)」の表示や修復部分を覆うシートをあちこちで見かけた。

 9~15世紀に栄えたアンコール王朝。遺跡の数は現在のカンボジア国内を中心に千前後とされる。野ざらしで崩壊が進む遺産を守ろうと、90年代から日本やドイツ、中国、インド、米国などによる遺跡の保存と修復の作業が本格化した。

 修復には時間と手間がかかる。例えば石組み回廊。全て解体して石の状態を見極め、損傷が激しいと交換する。「できるだけ現状を生かすように心掛けた」。アンコールワット正面の西参道を修復した上智大アジア人材養成研究センターの三輪悟研究員(41)は振り返る。

 ただ、手法は国々で異なる。カンボジアが独立する53年まで宗主国だったフランスは1900年頃から修復を始めたが、石組みの隙間にコンクリートを流し込むなど手荒さが目立った。

 「コンクリートは千年もたない」「原型が損なわれ、復元が困難になる」。相次ぐ批判にフランスはコンクリート使用を控えたが、今も重機で石を運び出すなど効率を優先する国もある。各国の協議では修復への考え方の違いもあり、手法が一致することはない。

 アンコールワットの北側にある城(じょう)砦(さい)都市遺跡「アンコールトム」。大雨で崩れた城壁近くでは、十数人のカンボジア人が強い日差しの下、木製ハンマーを手に作業に当たっていた。

 石組みした際に隙間ができないよう、のみで石の表面を削り、形を整えた石を積み上げるのも人力という。「建造時と同じ方法か、崩壊が進む中で効率性を求めるべきか、どちらが正しいかは分からない」と、現場責任者のマオ・ソックニーさん(43)。だが、こうも続けた。「先人と同じ技術を身につけて、遺跡を理解する。カンボジア人には遺跡を守る使命がある。そこから、最善の保存の道筋が見えてくるはずだ」。表情に信念を感じた。 (久保田敦が担当しました)

写真:アンコールトムの城壁を修復するカンボジア人

2015年5月30日 西日本新聞

在福岡カンボジア王国名誉領事館

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