- 開館日 月曜日~金曜日
- 閉館日 土曜、日曜、日本の祝日
- 開館時間 9時半~12時半
年末年始、ゴールデンウィークなどの特別期間は、その都度お知らせします。
今回、私はカンボジアの伝統医療(薬草を使用)と現在の病院等の連携のされかたを知るために現地へ赴きました。カンボジアで広く普及している伝統医療(※)は、病院へ行くための十分な費用や交通手段がない人々が利用している場合が多いということでしたので、対象は地方や都市の低所得者層に絞りました。その結果、湖の上で暮らす人々を支援するクリニックや、無償かほとんどお金のかからないいくつかの病院の見学をし、そこで働いているスタッフの方からお話をうかがうことができました。
※カンボジアには政府が設立した、国立伝統医療局という公の部署があります。(写真はその施設の銅像の前で撮ったものです。)
と、ここまで偉そうに書いてきましたが、実際カンボジアを視察したところ、連携などとのんきなことを言っていられない状況に出会いました。
○低所得であるということ
まずカンボジアで低所得であるということがどういうことか、私は分かっていませんでした。例えば、今回見学させていただいた病院の一つであるアンコール小児病院の創設者は、「親が2ドルの注射を買えず、ある女の子が亡くなったのを目の当たりにした」ことをきっかけに病院を作る運動を始めました。また湖のクリニックでは、少年が口から泡を吹いているのをみて、「助けてくれ」と泣き叫んでいた母親が、街に行くのに50ドルかかると告げられた瞬間、急に冷静になりその提案を断わったというエピソードを聞きました。その少年はそのまま亡くなったそうです。「命はお金で買える」これが、カンボジアの医療現場を訪れて心に何度も浮かんだ正直な感想でした。
○意識の問題
カンボジアでは健康や治療に対する意識が日本とかなり違います。複数の医療施設のスタッフさんが口をそろえて言うには、現在抱えている病状さえ治れば原因は追究しない人が大勢いるということです。そのため、検査にはお金がかかると言って医師から薬だけ出してもらう例、高血圧による頭痛薬(血圧を下げる)を住民同士でシェアしていたため、風邪で頭痛がした人がその薬を飲み、極度な低血圧で運ばれてくる例などがありました。これでは病院で治療をうけるにしろ、薬草を調合するにしろ効果的な成果をあげにくいでしょう。
○病院経営の厳しさ
お金で命が買えるという現状を変えようとする動きはあります。例えばシハヌーク病院(写真)ではタダ同然で高度な治療を受けることができます。しかし、病院の維持費がかさみ、一部の施設を閉じなければならなかった、あるいは寄付された機材はあるにもかかわらず、使える人材がいないといった大きな問題も抱えています。病院側は病院側の内部の問題で手いっぱいで、伝統医療との連携というのはまだまだ先なようです。
○伝統医療への不信
お話をうかがった病院関係者の多くは、一部の伝統医療に対して大きな不信感を持っていました。例えば祈祷や呪術によって「治療」してもらったはずが、全く回復せず、病院に行ったころにはすでに手遅れ、といったケースがありました。これらの「治療」は国立伝統医療局の人々も「magic」だと言って伝統医療の定義から外していましたが、広く認知されているのかは分かりません。
彼らによると「本物」の伝統医療は海外の論文で根拠が示され、効果があると考えられている薬草を使用する漢方のような役割を持っています。しかし、伝統医療局では実験機材が費用の関係でそろわず、実際の効能について詳しく分析できないそうです。病院側が求める「科学」の文脈にはいま一つ適合できていない状態です。外部からの不信、定義や費用といった内部の問題で伝統医療側にも多くの課題があります。
日本で「命より重いものなどない」と教えられてきた私は、カンボジアでの命のあまりの軽さに愕然としました。低所得者が安い薬草を使用して病気を予防すること、簡単な風邪を治してしまうことは魅力的な話です。しかし、そもそも原因を考えずに病気が表面化してから対策をとるので、薬草ではすでに手に負えなかったり、病院でも適切な薬を出しにくい問題があります。また病院側と伝統医療側で、それぞれが抱える課題にも取り組まなければなりません。広範囲での医療水準の底上げをしてから「連携」という話ができるようになるのではないでしょうか。
暗い話が続いてしまいました。カンボジアの街を歩いているとこれからどんどん成長していくぞ、という人々の活気に元気づけられます。医療施設で働いている人たちも例にもれず、問題意識とそれを改革していこうとする使命感であふれていました。決して希望がないわけではありません。あと数10年後のカンボジアの姿や、私自身がどのような立ち位置にいるのか分かりませんが、一人の医療人としてこの国に何らかの形で関わりたいです。
以上の体験は奨学金を提供していただいた在福岡カンボジア名誉領事館、西日本新聞社の方々のご支援がなければ得られないものでした。この場をお借りしてお礼申し上げます。貴重な機会をありがとうございました。
了
宮崎大学医学部 井上緑