半田スカラシップ・カンボジア遊学生企画 レポート
2024年8月27日から9月10日の2週間にわたり、私はカンボジア王国を訪れ、現地の実情に触れる貴重な経験をして参りました。本遊学は、在福岡カンボジア王国名誉領事館(以下機関・企業の敬称略)が主催し、西日本新聞社が後援する短期留学制度として実施されたものです。このプログラムには、九州の若者に日本とカンボジアをつなぐ「若き架け橋」になってほしいという願いが込められています。本レポートにて、私が今回の遊学で体験し学んだことをお伝えいたします。
私が遊学に応募したきっかけは、昨年このプログラムに参加した秦くんから話を聞いたことでした。彼がカンボジアで体験した出来事を聞くたびに、私も自らの目で現地を見て、日本では得られない貴重な経験をしたいという思いが強くなっていきました。
この遊学に臨むにあたって、私は次の2つの目的を設定しました。1つ目は、カンボジアの産業についての視察を行うこと。2つ目は、カンボジアの教育現場における実情を知ることです。これらの目標を掲げてプロジェクト第13期生の募集に応募し、今回の貴重な機会をいただくことができました。
本遊学で特筆すべき点は、すべての行動を自分自身の判断で決定できることです。(ただし、領事館の判断により、危険が伴うと考えられる計画は変更が求められる場合があります。)また、遊学中の活動は基本的に一人で行うこととなりました。
私は遊学生として採用していただいた後、遊学の目的を達成するための計画を一から作成しました。まず、1つ目の目的である「カンボジアの産業についての視察」に関しては、事前調査で得た情報をもとに以下の訪問先を設定しました。①観光地シェムリアップ、②日本貿易振興機構(ジェトロ)プノンペン事務所、③カンボジア日本人商工会(JBAC)④DAISHIN TRADING (CAMBODIA) CO.,LTDです。これらの場所を訪れることで、カンボジアの産業状況について多角的に学ぶことができると考えました。
次に、2つ目の目的である「カンボジアの教育現場の実情を知る」ために、半田名誉領事が総長を務められ支援を行なっている⑤The Handa アカデミー、⑥The University of Cambodia(カンボジア大学)への訪問を通じて、現地の教育に関する理解を深めたいと考えました。
以下では、①〜⑥への訪問を通じて得られた知見又は交流の様子をそれぞれご紹介いたします。
1、カンボジアの産業について
①シェムリアップ
カンボジアにおける産業の「4本柱」は、農業、縫製業、不動産業、そして観光業です。シェムリアップは、カンボジアの観光業の中心地として存在感を示しています。なぜなら、世界文化遺産であるアンコール遺跡がその地に鎮座しており、世界中から観光客を惹きつけているからです。
今回の遊学で最初に降り立ったのが、シェムリアップでした。到着してすぐに思うのは、とても近代的な空港が出迎えてくれるということです。2023年10月に開港したばかりのシェムリアップ・アンコール国際空港は、中国資本によるBOT(Build Operate and Transfer:建設・運営・譲渡)方式で建設されました。11億ドルをかけて建設されたこの空港は、今後アンコール遺産を訪れる外国人観光客にとって、大変便利なものであり続けるでしょう。カンボジア観光省のレポートによると、2024年の最初の2ヶ月間において観光客全体の42%が飛行機で入国したそうですが、この数字もますます増えることが期待されます。
今回、私はアンコール遺跡群の中でも特に有名なアンコール・ワットを訪れました。この世界最大の仏教寺院は、シェムリアップ中心地からトゥクトゥクで約20分の場所に位置しています。寺院内を歩きながら、細やかに刻まれた彫刻や、未完の部分との対比に目を奪われました。私は約2時間かけてこの壮大な遺跡を見て回りましたが、次回訪れる際にはぜひガイドさんの解説を聞きながら歩きたいと思っています。ガイドさんの中には日本語を独学で習得した方もおり、そうした人々との出会いも楽しみの一つです。
② 日本貿易振興機構(ジェトロ)プノンペン事務所
大西様にカンボジアの一般経済事情についてブリーフィングをしていただきました。カンボジアへの進出を考えている日系企業向けの内容を教わり、そこで得た知識をその後のカンボジアでの交流にも大いに活かすことができました。
特に驚いたのは、PPP(Public Private Partnership:官民連携)に基づいたBOT方式による海外からの投資が盛んに行われていることについてです。先に述べたシェムリアップの空港が、まさにその一例です。官民がパートナーシップを結ぶことにより、カンボジアの至る所で国家にとって目下の急務であるインフラ整備が実行されているということです。
BOT方式の他の例として、高速道路と運河が挙げられます。産業の「4本柱」の内、農業と縫製業によって生産される農作物や衣料品は、日本と同じように物流によって運ばれます。しかし日本と異なり、カンボジアでは物流の基礎となる道路と海路をこれから作っていく段階です。首都プノンペンから南部港湾都市シアヌークビルまでの初の高速道路が2022年の11月に開通したばかりであり、同高速道路は中国政府系の現地法人がBOT方式で受託しています。さらに、現在プノンペン-シアヌークビル間に国内輸送のための運河を建設中で、この運河が完成した際には、プノンペンから海上物流のみでタイやベトナムなどに輸出を行うことが可能になるそうです。このように、カンボジアでは、海外からの投資を積極的に受け入れる姿勢をとっています。
意外だったのは、カンボジア王国の債務状況です。インフラ整備のために中国などからの投資に依存しているため、国外への債務に不安が生じるかもしれませんが、実際には債務状況は国際的な格付けで良好とされています。これは、PPPに基づく国際協力が影響していると考えられます。そのため、諸外国から見ると、カンボジアに対する債権は魅力的なものと映っているようです。
③ カンボジア日本人商工会(JBAC)
垣下様、村上様、飯塚様に2023年の活動報告書をもとに主な活動についてお話を伺いました。現在、商工会には248社の日系企業が参画しており、その主な目的は、現地の日系企業が直面している課題を把握しその解決を図ることです。特に、解決することで全体の利益につながる課題については、他の国際機関と連携しながらカンボジア当局との議論を重ねているそうです。毎年行われる官民合同会議では、商工会に加えて日本大使館、国際協力機構(JICA)、ジェトロによる対話のチャネルも駆使し、現地政府の公社やカンボジア租税総局(GDT)などと対話を行っています。カンボジア政府としても、議論で発議された課題の解決に向けて前向きな姿勢を示しており、税制面での解釈の国際的な基準との一致化など、これまでに解決できた問題も多くあります。
一方で、カンボジア政府の長期的な方針には懸念も残ります。2023年に新政権を発足させたフン・マネット首相が掲げる「Pentagonal Strategy - Phase 1」では、国際協力関係を重視するとしていますが、これが長期的に自国産業の強化につながるかどうかは不透明です。特にBOT方式の投資では、譲渡が数十年先となることが多く、その時点でカンボジアの人口ボーナスが減少している可能性があるうえ、技術が国内に残る保証もありません。つまり、将来的に採算が取れるかどうか不明なインフラが政府に引き渡され、現地労働者への十分な教育が行われないリスクがあります。日系企業による投資が長期的に良好な関係を築くためには、JICAなどの指導のもと、現地労働者への教育を行うことが重要な課題であると考えられます。
④ DAISHIN TRADING (CAMBODIA) CO., LTD
現地の日系企業の状況を把握するため、西日本・カンボジア友好協会事務局の福松様のご協力を得て、日本食品卸のリーディングカンパニーCEOである小池様からお話を伺うことができました。DAISHIN TRADINGは、2013年に日系初の日本食卸会社としてスタートされ、カンボジア市場において日本食品の正規販売代理店としてトレーディング事業を展開されています。また、日本からのインターンを受け入れており、これまでに300人以上がインターンに参加した実績があるそうです。私が訪問した際にも北海道大学の学生の方がインターンとして勤務されていました。
興味深いのは、現地における日本食の需要の変化です。以前は日本食といえばしゃぶしゃぶや寿司など、現地で高級なものとして捉えられていたそうです。しかし、2014年のイオン参入により日本の存在感が増し、さらに2015には丸亀製麺がビッグバンを引き起こしました。丸亀製麺はプノンペンの中心部で店舗を立ち上げ、うどんを中心に日本食の提供を開始しました。それまで高級だった日本食が、2ドルから食べられるようになったのです。同時にプノンペンでは近代化に伴って中間層が増えていったことも後押しし、徐々に日本食はより身近なものとして現地で受け入れられるようになりました。
カンボジアのコロナ禍についてもお聞かせいただきました。プノンペンでは、当時日本よりも厳しいロックダウンが行われました。具体的には、感染者数に応じて3つのゾーンが定められ、ゾーンごとに外出や営業の制限があったそうです。また、日本では飲食店に対して補助金が支出されましたが、生活保護もないカンボジアでは少しの減税が行われたのみで、結果として飲食店を中心に次々と倒産が発生したそうです。DAISHIN TRADINGは、そのような状況下で売上が50%減少してしまいましたが、ECによる販売に注力し何とか事業を継続されたそうです。
また、カンボジアで事業を行う上での実務的な側面についても教えていただきました。GDTは2019年にオンライン付加価値税(VAT)システム(e-VAT)をリリースし、納税者にe-VATの利用を義務付けています。このことにより、仕入れと売上の管理は日本と同等程度の基準で行う必要があるそうです。一方で、突発的な追徴課税や税制変更などの税務リスクが日本よりも大きいため、現地のパートナーと信頼を築き、常に情報交換を行うことが重要であると小池様はおっしゃっていました。
2、カンボジアの教育について
⑤ The Handa アカデミー
シェムリアップの南西に位置するバッタンバンは、カンボジア第三の都市です。今回の遊学ではシェムリアップからバスを利用し、トンデサップ湖の西側を周回するルートで約3時間かけて訪問しました。
訪問先のアカデミーは、公立学校とは別に、英語、算数、クメール語、アート、PCスキルなどを学ぶことができる教育機関です。通う子どもたちは8歳から12歳ほどで、放課後には家族の仕事を手伝う子もいます。決して裕福ではない環境ですが、学校にいる子どもたちは純粋で幸せそうに見えました。私は英語とPCのクラスに参加させていただき、休み時間には彼らとランチを共にし、放課後にはサッカーを楽しみました。小学生の年代で2つの学校に通い、家族の手伝いをし、時には弟妹のためにご飯を作る彼らと触れ合いながら、カンボジアの教育の実情を知ることができました。子どもたちのために今自分ができることは、そこでの時間を共有し彼らにとっても良い思い出を作ってもらうことだと考え、行動しました。
アカデミーにいらっしゃる先生方はとても親切で、私のことを歓迎してくださいました。現在の生徒約80人に対して、フルタイムで勤務されている先生が5人、ボランティアの先生が1人、インターンとして勤務されている方が2人いらっしゃいます。先生方との会話を通じて、アカデミーの状況についてより深く理解することができました。学校に通う子どもたちは周辺の貧しい家庭で育っており、十分な教育を受けることが難しいそうです。そのため追加の教育が必要であり、アカデミーでは無償で学習ができる環境を提供していると分かりました。アカデミーの運営費や人件費はすべて半田名誉領事が負担しておられ、カンボジアの将来を担う子どもたちにとってとても重要な教育の機会が生まれていると感じました。
⑥ The University of Cambodia(カンボジア大学)
プノンペンでは、私立大学であるカンボジア大学を訪問し、同世代の学生たちとカンボジアの産業と教育についてディスカッションを行いました。さらに、一緒にクメールダンスを習い、大学を見学することで、彼らとの仲を深めることができました。
まずはディスカッションの内容についてです。カンボジアの産業と教育については、事前学習とそれまでの訪問から一定の知見を得ることができていましたが、私が関心を持っていたのは、それらのことについて同世代のカンボジア人がどのように感じているかについてでした。結論として、彼らは皆それぞれの夢を持っていました。彼らが将来携わりたいと考えているのは、例えばメディア、教育、デザイン、金融、政治などです。共通していることは、自分たちの力でこの国をより良くしたいという想いです。そのための明確なキャリアビジョンを描いている人も多く見受けられました。私は彼らの熱意とビジョンに深く感銘を受け、彼らが将来担うカンボジアを楽しみにしています。
次に仲を深めたことについてです。カンボジア大学を訪問した際に出会った人たちのことをもっとよく知りたいと思い、後日会う約束をしました。彼らには忙しい中時間を作ってもらい、感謝しています。彼らと一緒に訪れたのは、国立博物館、ワットプノン、ロシアンマーケットなどです。それぞれの場所について彼らが解説してくれたおかげで、それらの場所を一人で観光するより何倍も楽しむことができたと思います。また、最後にはカンボジアのことを覚えていて欲しいとお土産をプレゼントしてくれて、とても感動しました。彼らと再会できる日を心待ちにしています。
今回の遊学を通じて得た学びと感想を三つにまとめたいと思います。
一つ目は、産業と教育は相互に関係しているということを実感しました。高等教育を受けた人がこれからどのように動くのかが重要であるということです。カンボジアにおいて、人口ボーナスの恩恵は、今後数十年に渡ってカンボジアの成長を手助けするはずです。そのことに加えて、現在高度な教育を受けた人が活躍することが必要です。このことは、カンボジアと対照的に人口減少のフェーズに入った日本でも同様で、将来を担っていく若い世代の活躍が求められます。
二つ目は、国際協力のあるべき姿を学びました。日本のような先進国がカンボジアのような後発国に対して投資を行うことは、お互いの国の経済にとって重要です。しかし、目先の利益だけを優先するのではなく長期的な目線で良い関係を築いていくべきであることを忘れてはいけません。そのための投資を行うことが必要だと思います。
三つ目は、カンボジア人の勤勉性を感じました。今回の遊学で交流した同世代のカンボジア人は、それぞれの夢に向けて今できることを工夫して取り組んでいました。特に、英語力に関してそのことを感じました。例えば、The Handa アカデミーで出会ったインターンの大学生の方はとても英語が上手で、アメリカ出身のボランティアの先生とも話し合いができるほどでした。話を聞くと、コロナ禍に友人と二人で英語でしか話さないことを決めたそうです。そのおかげで、英語を話して聞く力がかなり身に付いたと教えてくれました。カンボジア大学に通う大学生も、英語が得意な人が多かったです。この勤勉性は、国家が成長し続けるための礎であると考えます。
本プログラムの審査員長を務められました、在福岡カンボジア王国名誉領事の半田晴久様、遊学にあたり長期間にわたり多大なご支援を賜りました同名誉領事館の皆様、西日本新聞メディアラボの皆様に、心より感謝申し上げます。
また、①〜⑥の訪問先でご親切にお話を伺わせていただいた皆様、訪問にあたりご協力くださった皆様、そして現地で温かく迎えてくださった全ての皆様に、心より御礼申し上げます。
日本とカンボジア両国の今後益々の発展と友好を、心よりお祈り申し上げ、結びとさせていただきます。
第13期生 木山 慈斗 九州大学経済学部